木のやわらかな質感が織りなす洗練

これまで建築デザインにおいて、高級という概念について語る時、一般的にとても硬質な素材が挙がっていたのではないでしょうか。大理石やステンレスなどです。どれも美しく、私たちもとても好んでいます。ただ、現代の上質について語る時、もっとオーガニックでやわらかな美に目を向けても良いのではないかと私たちは考えています。
それは、木や土や紙といった、日本の風土に根ざしたものです。風土に根ざすものが私たち日本人の本来の感性にすんなりと溶けこみ、心身を和らげ、リラックスさせてくれるのです。ただし、木も使い方を誤ると、とても野暮ったいものになってしまいます。
例えば、少々のフシなら味わいと言えますが、フシだらけの木があまりにもたくさん用いられていると、やはり視覚的にうるさく感じ、落ち着かないでしょう。
そのように、本来求めていたはずの空間とならないようにするには、木の種類・部位・規格・コストに精通していなければなりません。それら知識・経験を備えてはじめて、皆さまが過ごす場に「しなやかな美」を表出せしめ、それを「強靭な様式」たらしめるのです。特に非住宅木造を考える場合には頭に入れておきたいことです。
木の表情

木はさまざまな表情を見せます。もっとも一般的な木と言ってよい杉ですら、その形状や仕上げの方法、さらには染色の仕方で、まるで違った表情を見せます。
写真をご覧いただくと、この建物は私がもう20年以上も以前に設計した住宅となりますが、内装のみならず、外装や窓・扉にいたるまで、すべて木で造られています。
外壁に使われた杉は、幅10センチの板材であり、屋外で使うのでフシの有無はそもそも気になりませんが注目いただきたいのは、この色です。これはチャコールグレーの染料で染められていますが、元の素材が木ですので、茶色の生地色が薄っすらと透けて何とも言えない深みのある表情を見せています。遠目にはコンクリートのような質実剛健な表情すら見せます。そのような仕上げが施されたこの外壁も、近づくにつれ木本来のやわらかい質感が徐々に感じられ、そばまで来ると杉板1枚1枚の表面から浮かび上がる木目と濃淡ある墨色の表情を味わうことができます。
このように、木を知り、それをデザインとして昇華できる力量が求められるのが木造建築のおもしろさであり、これからの非住宅木造にも期待されることだと思います。
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