ヴィンテージマンションの醸成は簡単ではない
建築顧問業をしているので、その経験から古い建物の維持管理について書いてみる。現在マンションを購入して住んでいる、あるいは購入しようと考えている方々の参考になれば幸いだ。
マンションの場合、私の役割は主にテナントの入退去や、住民の方々がリフォームする際などに適法性のチェックを行ったり、毎月の理事会に参加して喫緊のものから長期的なものまで様々な議題について理事の方々の相談にのることだ。もちろん管理組合は管理会社と契約しているので、大抵のことは担当の方が適切に処理してくれるのだが、そこに「時間」という要素が関わると物事は簡単ではなくなってくる。
建物の老朽化というものは必然であり、適切な維持管理を怠ればそのぶん高額な修繕費となり区分所有者の方々が積み立てた修繕積立金を圧迫する。ここでは割愛するが、この積立金がさまざまな理由により不足するケースが多い。そして、満足な修繕を行うことができずに先延ばしになることで生活する上での快適性を損なうばかりか、消防法など法的な基準を満たすことが出来なくなる。これは建物の資産価値に関わる話だ。
また、多くのマンションの場合、各住戸の販売価格は大きく違わないが購入者の属性はばらばらだ。必然的にさまざまな背景、考え方を持った人たちが入居することになる。外国の異文化、宗教の方々が一定数を占めることある。つまり、ほとんど共通点のない者同士がひとつの建物に集まり、居住し、毎日のように共用部分で顔を合わせて生活することになる。人間社会である以上、いずれトラブルが起こる可能性は低くない。大規模修繕の金額も膨れ上がるばかりなのに、各々の建物に対する思い入れの強さや重視する事柄は異なる。
つまり、「集まって住む」ということは決して良い事ばかりではないということだ。
まれに老朽化マンションの再生例がメディアで取り上げられるが、これは“珍しい”から取り上げられるのであって、その裏にある住民の方々の努力は大変なものがあっただろう。決して簡単に実現できることではない。また、よほど大きな転機でもないかぎり「再生」という言葉に頼らずに日頃からマンション全体として建物を適切に維持管理していくことが大切だ。もちろん人間関係も良好でなければならない。これができて初めて「ヴィンテージマンション」たりうる。ヴィンテージマンションはひとつの文化であり、それは何十年もかけてつくられる。そして、残念なことにこの事を理解していない人が多い。
マンションの運営とそれにまつわる問題はまだまだ表面化していないことも多く解決策が少ないのも事実であり、これは関係者がとにかく試行錯誤し、動くしかない。建築顧問として少しでも良い方向に導くことが出来ればと思う。
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