すまいの記憶


私たちは、ふだん建築の設計をとおして、クライアントが古い建物を建て替えたりリノベーションするお手伝いをしている。

それは基本的に、クライアントの人生の「とても良い時期」に関わる仕事だ。しかし、昨今日本各地で起こる自然災害の甚大さを見るにつけ、これからは、たとえ私どもやお客様本人にとって本意でなくとも「とても悪い時期」に関わる必要があると痛感している。

巨大地震は言うまでもなく、台風やゲリラ豪雨による浸水、風害。これらは年々激しさを増している。そして、これまであまり影響を受けてこなかった地域にまで大きな被害を及ぼしている。

 

気候は変わってしまった。

そのうえで、家を建て替えたりマンションを購入して引っ越すことができる人もいれば、残念ながらそれが出来ない人もいる。

浸水して汚れて傷んでしまった家、瓦が吹き飛んでブルーシートがかぶさったままの家でさまざまな不便を我慢しながら住み続けなくてはならない人たち。

しかし、その両方の立場の人にとって共通の想いがある。

それは、その家で自分たちの生活がなに不自由なく送れていた頃の“思い出”だ。それはすでに頭の中にしかない。そして、新しい家に引っ越したり、傷んだ家で苦労するうちにその思い出は忘れ去られてしまう。

家はその人の“歴史”だ。できるだけその歴史を記録していきたい。

それが、先ほどの“お客様のとても悪い時期に関わる”ということになる。